いもピコ

豊かな水に恵まれた結のふるさと越前大野の伝統農具いもぐるまでピコ水力発電してみよう大作戦

みずコトからいもピコへ

いもピコこと、豊かな水に恵まれた結のふるさと越前大野の伝統農具いもぐるまでピコ水力発電してみよう大作戦。

今回はずっとさかのぼって、はじまりのはじまりのはじまりのお話です。時計の針を2017年の夏まで戻しましょう。福井県大野市とソーシャル&エコの雑誌『ソトコト』が開催したソーシャル人材育成講座『越前おおのみずコトアカデミー』。ここに集まった10人ちょっとの人たちからいもピコのプロジェクトがころころと、小さな里芋のように転がり出します。

 

 

はじまりは『みずコト』

『越前おおのみずコトアカデミー』、略して『みずコト』。何でも略せばいいってものでも無いけど、略します。大野市が主催して、首都圏に住む人と大野市を結び、関係人口を増やしていこうという全5回の講座です。

大野市の魅力は豊かな湧水とそこからかたち作られる人々の暮らし。大野市は「水」をテーマにして独立間もない東南アジアの国、東ティモールの水道インフラ造りを支援する事業もしています。

「関係人口」ってなんだろう?という人は、こちらの本、田中輝美『関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション』を読んでみるとちょっと理解の助けになるかもしれません。 

受講生にアドバイスをするメンターは、ソトコト編集長の指出一正さんと、大野市で生まれ育った現地在住の映像作家/グラフィックデザイナー、長谷川和俊さん。ふたりを中心に大野に住む若い人とかそうでない人たちが、大野の魅力や悩み、関わりしろを受講生に語り、一緒に考えていきます。

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集まったのは、水に興味がある人、ソトコトが好きな人、ただ釣りが好きなだけの人、大野にゆかりのある人もまったく関係無い人も合わせて10人あまり。方向性もみんなが一致するわけでもなく、なんとなくゆるい連帯感で進んでいきます。

そんな「みずコト」の中でもメインは、実際に2泊3日で大野を訪ねる現地インターンシップです。

 

豪雪の中の現地インターンシップ

インターンシップは2月の3連休を利用して行われました。不幸なことにか、どうなのか、37年ぶりと言われる福井豪雪のまっただ中。前の週の降雪で福井市では147cm、大野市では169cmの積雪を記録。雪は片付かず、まだまだ雪が降り続ける中での開催です。

集合場所の福井駅前は人の背丈ほどの雪を掘って通路が作られ巨大迷路の中のよう。大野市内も一面の銀世界でした。

それでも、大野市は豪雪への備えが進んでおり、市街地には湧水を利用した融雪装置が付いており、除雪車もフル稼働してくれたおかげで、無事、インターンシップは進みました。

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地元を盛り上げる活動をしている人や商店街の活性化に取り組み人、農業を営む人たちとの濃密な交流。そして、雪に閉ざされた音の無い世界がもたらす時の流れが止まったかのような特別な空間を満喫することができました。

しかし、雪に埋もれて東も西も分からないホワイトキューブの中のようなところをドアからドアへと移動していただけなのも、また事実。雪の無い大野の様子も見てみたい、ということで初夏の大野への第2次自主インターンシップ計画がもちあがります。

 

名水マラソンといもぐるま探し

そこでターゲットになったのは、大野市で毎年開かれている「名水マラソン」。今年は5月27日日曜日の開催でした。

ここに戻ってきた数名の受講生。マラソン班は10キロや3キロのコースにエントリーして実際に走ります。

もうひとつはピコ水力発電班。もちろん、家庭の電気をまかなうような大規模な発電はできませんが、水車で電気をつくることで大野の「水」を再発見するきっかけにしたいというプロジェクト。

中心的な役割のひとりが受講生でもある文化人類学者の北川真紀さん。エネルギーの自給を工学的ではなく、それを通して人々がどう変わっていくかという人類学的観点で考える研究者です。この後、北川さんは研究拠点として大野に移住してしまいます。

大野の市街地はあちこちに湧水スポットがありますが、しみ出すようにゆっくり水が湧いているため、水の勢いを電力に変える水力発電には向きません。そこで、田園地帯の農業用水路へ向かいます。大野のよいところは、市街地がコンパクトにまとまっており、中心部と周縁の田園地帯の距離が近いこと。

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5月は雪どけと田植えの時期ということもあって用水路の水量は多く、勢いもあります。ここで、水路を葉っぱが流れる時間を測るという原始的な方法で流量調査をしました。田畑の横の平坦な水路でも場所によっては毎秒2mほどになり、ごく小規模ならば水車で発電ができそうです。山ぎわの斜面へ行けば、水に勢いがありより実用的な発電ができそうな水路もありました。

 

いもぐるま発見!

さて水力発電をするには、水ともうひとつ、水車が必要になります。水に入れて回る車です。

もともと大規模な発電はスコープから外していたこともあり、小さくてもキリッとエッジの効いた素材は無いだろうかと探していました。

そこで白羽の矢を立てたのが、伝統農具いもぐるま。用水路を使って、里芋を洗うための道具です。しかし、最近は機械化もあって使われなくなり、若い世代では見たことが無いという人も。それを近年注目されている再生可能エネルギーの文脈で表舞台に引っ張り出してくることで、新旧の融合、温故知新、ふるさとのよさを知りつつ未来を向かえるのではないか、と考えたわけです。なにやら壮大な言葉が並んでいますね。

しかし、いもぐるまが無いのです。今は使われなくなったとはいえ、農家に行けば物置の奥にあるだろう、というのは甘い目論み。あちこちの農家さんを訪ねて回りますが、どこへ行ってももうありません。

巡り歩いて上庄へ。大野の中でも里芋の産地として知られているところだそうです。ここで、ようやく見つかりました、いもぐるま。

こちらがそのいもぐるま。

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しかも、ご好意でいもぐるまを譲ってくれるということになりました。

手元には立派ないもぐるま。もう、これは作るしかないね、ということに。

そんなこんなでなし崩し的に始まったのが、いもピコです。ちょうど時間になりました。続きは次回のお楽しみ。